クワイエット・ルームへの道
「無償の愛」なんて気持ちを抱くことができる他人に出会うことは、一生のうち何度あるだろうか。そんな相手に出会えたことだけでも、ある意味あたしは、今生を全うしているのかもしれない。たとえその思いが、初めの頃からことごとく上から下へ引ッぱたかれるように地面へ落とされていたのだとしても、割れた卵は何度でもつやつやと性懲りなく生きかえってきた。
この場でありったけのアレを飲み下してやろうと激しく泣いても、夜が明けると洟水と涙の筋もとともに流しちゃったような気になってしまっていた。
朽ちかけたトタンフェンスの、へこんだ畳敷きの床を軋ませながらすがりついてきた君に、気がつけばずいぶんと長いことあたしはかまけてしまった。甘いだけの桃は季節のハードルをひとつも越えられなかったのを見てみぬふりしてさ。
育つのかな。育たないのかな。
育ててみないと、わかんないよ?
もういちど、道っ端に転がるところからやり直すよ。
やっぱり君じゃ、だめだった。
・・・そういう歌を書きながら徐々に意識を失い、最後に骨壺の中から親族のすすり泣く声を聞くまでの夢を見た。間違って棺桶まで入ってしまうところまではあったけど、骨になるところまで進んでしまうのは初めてだった。
寝る前に、映画「クワイエットルームにようこそ」のストーリーを読んでしまったからかもしれない。
久しぶりにみる我が「死」は、わりと静かなものだった。あんまりこわくなくて。